Nowhere Man's Side

何者でもない人達へ

リンカーンとアメリカンコーヒー

みなさんは気分がうつ向いている時、何をして過ごしているでしょうか。休日にショッピングモールに出かけたり、家族とピクニックに行って気分転換をしているかもしれません。僕がどうしているのかというと、アメリカンコーヒーを片手に本を読んだり、ひたすら好きなアーティストの音楽を聴きながら、街を歩きます。そしてふと何かの匂いに誘われて歩いていると(嗅覚は常に普遍であり、記憶を鮮明に蘇らせます)、昔の情景が思い出されて、ノスタルジックな気分に浸っています

かつてアメリカの大統領であったリンカーンもそうでした。気分がうつ向いている時、彼はこのような言葉を残しています。「この悲しい世界では不幸は皆に訪れる。その場合、ひどい苦しみを伴うことがある。完全に癒すことができるのは、時をおいて他にない」。大統領という誰よりも多忙な日々を送っていたリンカーンは、誰よりも苦悩の日々を送っていたに違いありません。その他にも彼は躁うつ病だったという話もあります。躁うつ病というのは、気分のハイとローを繰り返す病気のことです。つまりリンカーンがあそこまで行動できたのは、この病気があったからだと言う人もいます。

気分を変えるにはいろんな方法がありますが、時を考えることが一番良い方法なのかもしれません。インディアンやジャマイカでは昔からタバコや大麻を吸うことは何も悪いことではありませんでした。なぜならタバコや大麻は時を思い出させてくれるからです。インディアンはタバコを吸いながら、もくもくと上がっていく煙を「記憶のかたまり」と呼びながら、悲しみの深い傷を癒していたといいます。

何もやる気が出ない時、悲しいことや苦しいことがあってつらい時、一度、映画のワンシーンでよくあるように物思いに耽ってみてはどうでしょうか?何も考えずに時を過ごしてしまえばそれでも自然と傷は癒されてはいきますが、それはあくまでも表面上の話です。ひとたびその穴に風が吹けば、いとも簡単にその薄っぺらい膜は剥がれ落ちて、その傷を守るために身を丸めることになるでしょう。その穴を埋めて前に進むためには、ひたすら過去について考えてみることです。そうすればいずれはスティーブジョブズが言ったように、点と点がはっきりして、一つの線になります。その線はやがて一つの道になり、確実に人生の目的を見つけることになります(あとは前に進むだけです!)。

ただもしも過去を見つめることができたのなら、いつまでもそこへいてはいけません。過去というのは、一度足を踏み入れてしまうと、あまりに居心地が良くて、いつまでもそこにいたいと思ってしまうからです。過去は絶対に変わりません。それが楽しい思い出や気持ちの良い思い出であればあるほど、その深みにはまってしまいます(昔は良かったとか、昔の自慢ばかりする人は要注意です)。子供時代が楽しいのは当たり前です。過去はあくまでも自分の存在を確かめるための材料であり、今の自分と未来への線を立てていくための指標です。

偉大な思想家であるアリストテレスは言いました。「神すら過去を革めることはえず」キケロという哲学者も同じようなことを言っています。「過去のほか確かなものなし」。最後にハーバード大学の哲学教授であったサンタヤナは過去の扱い方についてこう言っています。「過去を思い起こしえない者は、過去を繰り返すように運命づけられている」。過去の扱いには十分注意してください。それは人間にとって最も危険で魅力的な「劇薬」だからです。