Nowhere Man's Side

何者でもない人達へ

天才は昆虫を追う

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昆虫好きの天才が数多くいることを、あなたはご存知だろうか。宮崎駿養老孟司手塚治虫冨田勲。彼らの分野はアニメーター、解剖学者、漫画 家、音楽家とそれぞれ違うのだが、どうしてか昆虫と共に過ごした幼年時代がある。昆虫の存在と天才の存在はどんな関係性があるのか、少し考えて見たいと思 う。

 

小さな虫たち

 

虫 と言ったら何を思い浮かべるだろうか。それはいくつもあるが、ひとつは「小さい」ということだと思う。虫は小さい。その歩みはあまりに小さく、蟻の百歩が わたしたちの一歩と同等だ。しかし、それがとても面白い。その時点でわたしたちの興味は一気にエスカレートする。どうして、蟻はこんなにも小さいのに生き ているんだろうって。

 

蟻 は巣を作り、その下はいくつもの部屋がある。すべての部屋がトンネルで繋がっていて、食料庫や養殖場、女王部屋がつらなっている。ぼくはよく、水を流し込 んだり、石を放り投げたりしていた。すると、蟻がものすごい勢いで出てきて、落ち着いてくると、石を運んできたり、水が乾くのを何度も見に行ったりしてい る。 その行動はとても時間がかかるのだけど、なぜだかとても面白い。世界の縮図を見ているようで、自分が神さまになってような気がするからだ。こうして 虫を観察することは、わたしたちの忍耐力を極限まで押し上げ、世界を創造することの楽しさを覚えさせてくれたのだ。ぼくたちはまさに神さまだった。

 

ダンゴムシ迷宮レース

 

あ る時、ぼくはダンゴムシを五匹ほど捕まえてきて、石垣の溝に入れて、競争をさせた。ダンゴムシは溝の上に上がろうとせず、迷路のような道の先を進んでいっ た。ところどころに障害物を起き、一番を競った。ダンゴムシは触覚を懸命に動かしながら、ゴールへと進んでいく。その姿はまさにわたしたちが、新しいもの を学んでいるときの、頭を捻って考えている姿にそっくりだった。ダンゴムシも考えて生きている。その労力はぼくたちの創造をはるかに超えているだろう。 だってあんなに小さいのだから。そうしてようやくダンゴムシはゴールへと辿り着いた。ぼくたちは小さな積み重ねが結果を生むことをダンゴムシから学んだ。

 

カマキリvsトンボのワンマン勝負

 

あ る暑い夏。小池のほとりで、カマキリとトンボをいつものように、何時間もかけて捕まえてきて、戦わせたことがあった。ぼくは当然カマキリが勝つだろうと思っていた。あの大 きな鎌があれば、どんな虫も餌食にしてしまうと思っていたからだ。トンボは大きな鎌を持っていなければ、尻尾で絡み付けるわけでもない。勝負は決まってい ると思ったけれど、ぼくの興奮は抑えきれず、早速、カマキリとトンボを向かい合わせにして、戦わせた。互いに初めは様子を見ている。どうしてこんな状況に なっているのか、想像できないのだろう。

 

やがて30分ほ ど、たったころ、カマキリが先制攻撃をしかけた。「カマキリが勝った」しかし、そう思ったのは一瞬だった。なぜなら、カマキリの大きな鎌は、トンボの硬い 頭を上手く捉えることができなかったからだ。次の瞬間、トンボは大きな顎を使って、カマキリの頭をムシャムシャと食べ始めた。ぼくは唖然とした。こんな現 実があるなんて知らなかったのだ。トンボについて調べてみると、彼らの肉食で魚を食べるのだそうだ。ぼくはそのままトンボがしっかりとカマキリの食べきる のを待った。ぼくの興奮を最高潮に達していた。生き物の強さは見かけだけではない。人もそうだ。大きな道具を持っているからと言って、必ず勝負に勝つわけ ではないのだ。生きる強さをぼくはカマキリとトンボの対決から教わった。

 

天才の視点は「虫眼」

 

こ れらはぼくの体験談だ。虫はとても面白いことがわかっていただけただろうか。虫を見ることはとても時間を要する。しかし、その時間はかけがえのないものだった。虫を観察する。実験する。競わせる。戦わせる。虫を扱う中で、世界を創造することができる。虫はとても緻密な社会を持って生きている。その複雑さはま だ解明されていないことが多く、わたしたち人間の社会よりも複雑な場合がある。だがその社会を、観察することの意味は大きい。あなたは虫の小さな歩みの一 歩一歩に感嘆することができるだろうか。懸命に触覚を動かしている虫の気持ちに感情を抱くことができるだろうか。

 

世 の中の解像度を上げて注意深く見るために、虫は大きな力となってくれるだろう。観察する力は、天才にとって必要不可欠の能力だ。その観察力なくしては、ど んな素晴らしい点もみることができない。もし自分の想像力に限界があると感じたのなら、今からでも遅くはない。すぐそこに蟻やダンゴムシが住んでいる。 ちょっとお邪魔して、観察してみよう。その小さな宇宙に感動したのなら、すぐにでも天才の視点を得ることができる。天才の視点は虫眼なのだ……。